安全のためにヘルメットをかぶらない?

夜間の安全性向上のため、ストライダにテールランプを取り付けた。
クロップス ANT-MX1-Rとかいう製品。
これで車に追突される可能性が少しは低くなっただろうか?
さらに安全性を高めるため、ヘルメットを装着すべきであろうか、と検討していたところ、以下の論文のことを知った。
Walker, I. (2007). Drivers overtaking bicyclists: Objective data on the effects of riding position, helmet use, vehicle type and apparent gneder. Accident Analysis and Prevention, 39, 417-425.
イギリスの心理学者のWalkerさんの論文。
自転車を追い越していく自動車が、自転車にどのくらい接近してくるかを調べた研究である。ヘルメットの装着の有無、自転車が道のどの位置を走るか、追い越す車の種類、自転車運転者の性別による影響を分析している。
この手の研究では、安全のためバーチャルリアリティ(ドライビングシミュレータ)などを利用することがある。しかしこの研究では、自転車で町中を実際に走行している。自転車に超音波式の距離計を取り付け、自動車が自転車を追い越していく際に、どのくらいまで接近してくるかを測定。自転車には論文著者のWalkerさん本人が、普段着姿でまたがり、時速30 km前後で走行した。
測定の結果、追い越しの際の距離は、3.54 mから0 m以下となった。0 m以下ってのはもちろん接触していることを意味している。実験中に2回も接触事故が起きたのだそうだ。事故が起きたような特殊な事例や、その他の外れ値をのぞいて、2320回の追い越し時のデータを分析したのだという。
1)路肩からの距離の影響
まず、自転車が路肩からどれくらい離れて走っているか、によってどんな違いが出たか?ちなみに、路駐している車があるような場合には、路駐車両が路肩と見なされる。
「自転車は路肩から多少離れて、車道側にふくらんだコースを走った方が、車が大きくよけてくれて安全だよ」、という通説があるらしい。
ところが、今回の実験結果はそれとはまるで逆となった。
路肩から25 cmくらいのところを走った場合、車との距離は1 m 40 cm前後。そして、路肩からの距離が長くなるにつれ、車との距離は短くなっていった。車道に大きくふくらんで1 m 25 cmくらいのところを走った場合は、車との距離は1 m 15 cmから1 m 20cmとなった。
この結果だけに注目すれば、自転車は路肩に近いところを走った方が安全ということになる。ただし、路肩に近いところを走行すると、物にぶつかったり乗り上げたりと、別のリスクが生じるので、著者のWalkerさんは、ほどほどの距離(50 cmから75 cm)がいいんじゃないの、と提案している。ただし、交差点付近では、ドライバーに気づいてもらえるように、もっと車道よりを走った方がいいかもしれない、とも述べている。
2)ヘルメット装着の影響
今回、私が特に知りたかったのがこの要因。
ほとんどの場合に、自転車運転者がヘルメットを装着していると、ドライバーは自転車により接近した状態で追い越していく、という傾向が見られた。ヘルメット装着の有無による違いは10 cm程度ではあったけれども、明確な傾向が得られた。
自転車運転者のヘルメットには、自動車を引き寄せる効果があったのである!
これはおそらく、「ヘルメットをかぶっているからぶつかっても大丈夫だろう」、とか、「わざわざヘルメットをかぶるような趣味的bicyclistは運転がうまいんだろうからぶつかりゃしないだろう」、という判断が働くためかもしれない、とWalkerさんは述べている。
自転車が自動車に追突された場合の死亡率は非常に高いそうで、ヘルメットの効果を疑問視する立場もあるらしい。とすれば、ヘルメットを装着すると、自分を追い越していく自動車を引きつけ、追突事故の確率を引き上げることになってしまう。では、ヘルメットは装着しない方がよいのだろうか?しかしヘルメットを装着しなければ車に追突されない、というわけではない。何かが起きてしまったときに頭部がむき出しになっているよりは、ヘルメットを装着している方がマシではないかとも思うが…どうなのであろう?(ベイズの公式が思い出されてきたが…関係ある?)
3)車の種類の影響
私は車のことは全然詳しくないのだが、論文では
(1) ordinary cars,
(2) light goods vehicles and minibuses
(3) sports utility vehicles and pickup trucks
(4) buses
(5) heavy good vehicles
(6) taxis.
というように分類されている。車の大きさで言うと、(1) (6) (2) (3) (4) (5)という感じだろうか。基本的に、大型車ほど自転車に接近してくるという傾向が見られた。自転車との距離は、(1)(2)(3)がだいたい1 m 30 cm前後、(5)の大型トラックが 1m 15 cmくらい、(4)のバスが一番怖くて1 m 10 cmくらいとなった。ただし、タクシーは1 m 20 cmくらいまで接近してきた。これは車の大きさの問題というよりも、ドライバーの気質の問題か?
ともあれ、バスや大型トラックが近づいてきたら、自転車は路肩に逃げろ、ということだろうか。
4)性別の影響
自転車を運転しているのが男の場合と女の場合でどんな違いがあるか?とはいえ、実際に走っていたのはWalkerさん(男性)だけ。女性条件では、ウィッグを付けて、うしろから見ると女性っぽく感じられるようにしている。Walkerさん本人も書いているが、もちろん髪の毛が長い=女性ということにはならない。厳密に言えば、男性条件と女性条件の比較というより、短髪条件と長髪条件の比較となる。
細かいことはさておき、男性条件と「女性」条件の間には有意な差異が認められた。追い越していく車との距離は、男性条件が1 m 20 cm強だったのに対し、女性条件ではだいたい1 m 40 cm弱まで伸びた。
以上、大雑把に論文の内容をまとめてみた。
非常にわかりやすいデータであり、実際の自転車走行の際に大いに参考になると思われる。
しかしヘルメットを装着すべきなのかどうかは、今ひとつよくわからない。
ひとつ気になるのはこれがイギリスでのデータだということ。
日本においても同様のことが成り立つのかどうか?
誰か調べてくれないだろうか?
しかし結構危険な実験であり(Walkerさんも2回接触事故を起こしているし)、学部学生の卒業研究のテーマ、というわけにはいかないだろう。
ちなみに、サイテーションインデックスで調べてみたところ、現時点でこの論文を引用している論文は2件のみ。論文発表後に大きな発展はまだ無いようだ。
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