Ghost in the Psychology Laboratory

(御茶ノ水駅付近にある幽霊坂の表示)
心理学では幽霊、霊魂といったものを直接には研究の対象としません。
しかし、幽霊という概念に対する人間の反応は、心理学の守備範囲内です。
たとえばこんな研究があります。
被験者は大学生127名。
一人ずつ実験室に来てもらい、パソコンを使ったテストをやってもらいます。
テストの内容は、実験心理学分野でメンタルローテーションと呼ばれるものです。
まず、ある物体の画像がパソコンの画面に表示されるので、被験者はそれを記憶します。
次に、似たような画像がいくつか表示されるのですが、そのうち一つは最初に表示されたものと同じ物体の画像、他はよく似た別の物体の画像になっています。
被験者の課題は、最初に表示されたのと同じ物体の画像がどれかを当てるというもの。
ただし、物体の向きが最初とは違っていますので、簡単には回答できません。
最初に見た物体の画像を思い出して、頭の中で向きを回転(メンタルローテーション)させてから回答選択肢の画像と比較しないと、どれが正答かは判断できません。
このような問題のうち、かなり難しいものを25問厳選しました。
被験者には、
「空間的知能に関するテストの妥当性を調べるためのデータを集めさせていただきます」
と説明してあります。
続けて、
「ただし、実は実験プログラムに不備があって、回答選択肢の画像が表示される直前に、正答となる画像が画面に表示されてしまうことがあります。」
と説明します。
嘘なんですけどね。
正答が画面に表示されるようにわざと仕組んであります。
25問のうちの5問で「誤って」正答が画面に表示されるようになっています。
「それを見てしまうと正しいデータが得られません。スペースバーを押すと、その画像を消すことができます。万が一、プログラムのミスで正答が画面に表示されてしまったら、できるだけすばやくスペースバーを押してください」
ということは、わざとゆっくりスペースバーを押すことにすれば、ちゃっかり正答を覚えてしまうことができるので、高得点が得られることになります。
しかし、
「実験データは匿名で分析され、研究のために利用されます」
ということであり、単位認定のための試験ではありませんから、このテストの成績が良かろうが悪かろうが学生さんたちにとっては無関係。
彼らがずるをする必然性はありません。
そこで、
「ただし、最高得点をとった被験者には、賞金として50ドルさしあげます。ですからできるだけ良い成績が得られるようにがんばってくださいね」
と、ずるをしたくなるように仕向けます。
しかも、回答中は、実験者は室外で待機しています。ずるをしているかどうかは監視されていないのです。
ただし、正答が「誤って」表示されてから、スペースバーが押されるまでの時間が記録されていましたので、後でデータを見れば、ある程度のことはバレてしまいます。この時間が短いほど、正直に実力で回答しようとしたことになり、長いほどずるをしようとしたことになります。被験者はそのことを知りません。
被験者は三つの条件に割り振られました。
1)追悼条件
実験を開始する前に次のことが告げられます。
「実はこの研究プロジェクトに大きな貢献をしていた大学院生が先日亡くなりまして…」
2)幽霊条件
追悼条件の話に続いて、
「で…この実験室、出るらしいんですよ。その亡くなった院生の幽霊が…」
3)統制条件
この条件では、とくに何も告げられずに普通に実験が開始されます。
何も手を加えていませんから、被験者の標準的な反応が得られるはずです。

結果は上のグラフの通り。
スペースバーを押すまでの時間は、統制条件が一番長く、幽霊条件が一番短くなりました。
よけいな話を聞かされて気になってしまったから、反応が影響されたんじゃないか、という解釈もあり得ますが、そういう場合、反応時間は長くなるのが普通です。
しかしこの場合、幽霊条件の被験者は必死で素早くスペースバーを押して、できるだけ正直に回答しようとしていたことになります。
しかし…
反応時間が一番短かった幽霊条件でも、スペースバーを押すまでに4秒もかかってるってのがちょっと信じられません。
4000 msではなく、400 msの間違いじゃないんでしょうかね?
どっちにせよ、実験条件間で有意な差が見られたという点は注目に値すると思います。
この実験結果は、死者への畏れってやつを反映しているのでしょうか?
幼児に対して、
「ほーら早く寝ないとオバケがでるよ〜」
みたいな躾は、その妥当性はさておき、よく行われていると思います。
が、この実験結果を見ると、大学生に対してもある程度有効なようですね。
「ほーら講義中に私語をしているとオバケがでるよ〜」
「人のレポートを丸写しにするとオバケがでるよ〜」
Bering, J., McLeod, K., & Shackelford, T. (2005). Reasoning about dead agents reveals possible adaptive trends. Human Nature-An Interdisciplinary Biosocial Perspective, 16(4), 360-381.
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