乳児に善悪の区別がつくか?
時事通信社が、「6カ月児も善悪を区別=米研究チームの実験結果−英紙」という見出しの記事を出した(リンク)。
あかちゃんにも善悪の区別ができる、という発達心理学的研究の成果が得られた、という内容の記事だ。
記事中、実験内容を紹介している部分を引用すると、
「実験では12人の6カ月の赤ちゃんに(1)丸いおもちゃ「クライマー」が丘を上ろうとするが失敗する
(2)三角のおもちゃ「ヘルパー」がクライマーを丘の上まで押し上げる
(3)四角のおもちゃがクライマーを丘の下まで押し戻す−という3つの映像を見せた。
その後、赤ちゃんにおもちゃを選ばせると、全員が三角に「好意」を示したという。」
というもの。
この記事を読んだ人たちの様々な反応をネット上で見ることができた。
例として、「すげこまくん」のブログから以下に全文引用する。
善悪を区別、ねえ。
でたらめを言うのもいい加減にして欲しいもんだ。
そもそも、丘に登るのを助けるのが善で妨害するのが悪というのが意味不明。
もしかしたら四角形は、丘の上に爆弾があるのを知っていて、クライマーを助けようとしていたのかもしれないじゃないか!
心理学者の頭の中の善悪ってのずいぶんとシンプルなんだな(ゲラ
仮に、この「善悪」を認めるとしても、こんな実験からでは何もわからない。
赤ちゃんは単に形を見ていただけで、四角より三角がが好きだっただけかもしれない。
ちゃんと調べるんだったら、四角がヘルパーで三角が妨害者っていう逆のパターンも調べなければならない。
それだってまだ不十分だ。
ひょっとしたら、赤ちゃんは下向きに動く物体よりも、上向きに動く物体が好きだったというだけなのかもしれない。
更に言えば、おもちゃを選ぶ=好意だなんて、論理の飛躍以外の何ものでもない。
しかも、調べたのはたったの12人?被験者数少なすぎ orz
功を焦った学者センセイが、憶測に基づいてでたらめを言っているだけの研究ということで終了?
だいたい、こんな研究を何のためにやっているのかが理解できない。
学者先生が「発見」したと称していることなんて、わざわざ実験をしなくたって、既に分かり切ったことだ。
自分の子供を見ていれば、言葉をしゃべり出すはるかに前の段階から、善悪やモラルに対して敏感に反応していることがはっきりとわかる。
研究費の無駄遣い。
という、すげこまくんは架空の人物であり、従って、上のブログ記事も私のでっち上げの脳内記事である。
では、この脳内記事に自分自身でツッコミをいれてみよう。
「善悪を区別、ねえ。
でたらめを言うのもいい加減にして欲しいもんだ。
そもそも、丘に登るのを助けるのが善で妨害するのが悪というのが意味不明。
もしかしたら四角形は、丘の上に爆弾があるのを知っていて、クライマーを助けようとしていたのかもしれないじゃないか!
心理学者の頭の中の善悪ってのずいぶんとシンプルなんだな(ゲラ
まず、この研究論文はnature誌に掲載されたもの。その論文に関する記事がデイリーテレグラフ誌に掲載され、それをとーてーも短く要約したのが時事通信社の記事である。孫引きの孫引きだ。
記事に書いてあることが論文の全てではないし、すげこまくんがこの記事に不満だったとしても、だからといって元の論文がヘボだということにはならない。
記事の表現には記者の解釈が含まれているであろうし、場合によっては誤解がある可能性もある。
実際、元の論文で論じられているのは、援助者 (helper)と妨害者(hinderer)の区別が赤ちゃんにも可能だ、ということであり、善悪の区別についてではない。
仮に、この「善悪」を認めるとしても、こんな実験からでは何もわからない。
赤ちゃんは単に形を見ていただけで、四角より三角がが好きだっただけかもしれない。
ちゃんと調べるんだったら、四角がヘルパーで三角が妨害者っていう逆のパターンも調べなければならない。
研究を発表しているのはプロの心理学者だ。
しかも、この研究を発表した先生達は、研究期間中は朝から晩まで年がら年中このトピックについて考えていたであろう。
さらに、おそらく学生のころから関連するトピックについてずーっと考え続けてきた人たちであろう。
そんな人たちが、素人のすげこまくんに思いつくようなことを思いつかない、と何で思うのだろうか?
そんなに心理学者って馬鹿に見える?
論文中ではもちろん、すげこまくんが指摘していることを考慮して、単に形の好みではない、ということを確認している。
それだってまだ不十分だ。
ひょっとしたら、赤ちゃんは下向きに動く物体よりも、上向きに動く物体が好きだったというだけなのかもしれない。
もちろん、その程度の事は論文中で検討されている。
この研究で本来調べたい要因は、援助と妨害の違いだ。それと無関係な要因のことを、例えば剰余変数などと呼んだりする(東大の心理学・社会心理学研究室ではそういう呼称で指導している)。
心理学の世界に入ると、学生のころから、剰余変数の影響を排除して結論が下せるような思考方をずーーっとトレーニングすることになる。
ちゃんと剰余変数(この場合動きの上下)に気づいたすげこまくんはとても偉いけれど、心理学者も頑張って考えたら同じ事を思いつきましたよ。
更に言えば、おもちゃを選ぶ=好意だなんて、論理の飛躍以外の何ものでもない。
好意というか、多分「好む prefer」を日本語に訳したんだろうけれど、これは「好き」という意味の日常語ではなく、専門用語だ。
専門家向けの研究論文を理解するのはむずかしいね。
しかも、調べたのはたったの12人?被験者数少なすぎ orz
ちなみに10ヶ月齢の子は16人とっているが、16人ならOK?
少ない?じゃあ100人ならOK? でも99人だとだめ?
被験者(参加者)の数は、多いに越したことはないが、必要な人数は直感でいい加減に決めているわけではない。
統計的分析の結果に基づいて判断しているのである。
ちなみに、援助者と妨害者を見せられた12人の赤ちゃん全員が、援助者に手を伸ばした。
こんなことが偶然におこる確率は0に近い(P = 0.0002)ということが、12人のデータがあれば十分に主張できる。
功を焦った学者センセイが、憶測に基づいてでたらめを言っているだけの研究ということで終了?
論文を掲載するには、審査があるって知ってました?
審査員をするのは、同じ分野の研究者(複数名)で、「悪意があるんじゃないの?」ってなくらい厳しい批判が繰り出されてくる(T_T)
その批判を見事くぐり抜けた論文だけが学術誌に掲載される。
ましてや、nature誌は、トップジャーナルとかプレステージジャーナルなんて呼ばれる世界最高水準の学術誌。
その審査の厳しさたるや…
「おれさまスゴイ発見しちゃったので発表しマース」という訳にはいかないのである。
当然、素人衆が思いつくような批判には、審査の過程で複数のプロの研究者から指摘し尽くされている。
だいたい、こんな研究を何のためにやっているのかが理解できない。
「理解できない」原因として二つのものが考えられる。
一つは、プレステージジャーナルに掲載されたこの論文が、研究の意義すら明確でないようなカスだという可能性。
もう一つは、すげこまくんの理解力に問題があるという可能性。
素人衆が専門的研究の意義や目的を理解することは容易ではないよね。
学者先生が「発見」したと称していることなんて、わざわざ実験をしなくたって、既に分かり切ったことだ。
自分の子供を見ていれば、言葉をしゃべり出すはるかに前の段階から、善悪やモラルに対して敏感に反応していることがはっきりとわかる。
研究費の無駄遣い。」
あら?すげこまくん、お子さんがいらしたとは。結構なお年だった?
で、「はっきりとわかる」ってことですが、お子さんは12人以上おられるのでしょうか?子だくさんなんですね。膨大な観察から得られた知見ならば尊重しますが…
そういう話は「子育て掲示板」みたいなところでしたほうがいいのでは。
以上、自分で作った仮想人物に自分自身でツッコミを入れる、という遊びでした。
Hamlin, J. K., Wynn, K., & Bloom, P. (2007). Social evaluation by preverbal infants. nature, 450(7169), 577-559.
[おねがい]
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