知らず知らずのうちに… (1)

(Nikon EDIII, 30XWFA, Canon Powershot S80)
こんな話をどこかで聞いたことがないでしょうか。
映画のフィルムの中に、コーラやポップコーンの映像を瞬間的に挿入する。
観客はそんな映像に全く気づかないのだが、無意識のうちに影響を受けてしまう。
結果として、コーラやポップコーンの売り上げが上がった。
いわゆるサブリミナル効果ですが、つい最近も、某テレビ局の放送中に、某新興宗教教祖の顔写真が短時間挿入されていたとかで話題になったことがありますね。
ただし、この元ネタ、いまひとつ信憑性に欠けるらしくて、現象に再現性が無かった、という報告も出ているようです。
じゃあ、サブリミナル効果なんてものは全く存在しないのでしょうか?
ある論文で、似たような効果について検証しているものがありましたので、ここで紹介してみましょう。ニューヨーク大学のBarghたちが、1996年に、Journal of Personality and Social Psychologyに発表した論文です。普段、社会心理の論文はあまり読まないので、ちゃんと理解できているかどうか心配ですが (^^;
Bargh, J. A., Chen, M., & Burrows, L. (1996). Automaticity of social behavior: Direct effects of trait construct and stereotype activation on action. Journal of Personality and Social Psychology, 71(2), 230-244.
Barghたちは、被験者さんに、「言語能力に関する実験をする」、という名目で実験室に来てもらいます。あくまで名目で、です。
実際の研究目的は言語能力とは無関係なので、被験者さんにウソをついていたことになるんですが、言語課題をやってもらうのは本当です。
どんな問題だったかというと、例えば、
they her bother see usually
のような、5つの英単語のリストから4つを選び出し、意味の通る英文になるよう並び替えるというものです。全部で30問やってもらいました。
このとき問題として使った単語には、ある仕込みがしてありました。
被験者さんはランダムに、
・粗暴条件
・上品条件
・中性条件
のどれかに割り振られたのですが、粗暴条件では、問題単語の中に、粗暴な特性を表すものが含まれ、上品条件では上品な特性を表すもの、中性条件ではどちらとも言えないものが含まれていました。
粗暴な特性を表す単語は、
aggressively, bold, rude, bother, disturb, intrude, annoyingly, interrupt,
audaciously, brazen, impolitely, infringe, obnoxious, aggravating,
and bluntly
上品な特性を表す単語は、
respect, honor, considerate,
appreciate, patiently, cordially, yield, polite, cautiously, courteous, graciously,
sensitively, discreetly, behaved, and unobtrusively
中性条件で使った単語は、
optimistically, successfully, normally, send, watches, encourages,
gives, clears, and prepares
結構知らない単語がありますね(^^;
さて、
この言語課題が終わると被験者さんは、もう一つの実験があるので、すぐそこにある別の実験室に移動して欲しい、と指示されます。
で、
被験者さんが別の実験室に行くと、実験者がいます。
が、すぐに実験を始めることができません。
なぜなら、その実験室には既に別の被験者がいて、実験者から実験内容の説明を受けているところだったからです。
実際にはこれが大嘘。
そこにいたのは被験者役のスタッフでした。
で、実験者と被験者役は、本物の被験者のことは完全に無視して、やりとりを続けます。
本物の被験者さんは、そのやりとりが終わるまで待たなければいけないわけですが、そのやりとりは演技ですので、いつまで経っても終わりません(^^ (実際には10分を上限として設定)
しばらくすると、本物の被験者さんはしかたなく、
「すみません、こっちの部屋で実験するように言われたんですけどぉ」
とか何とか言って、そこでのやりとりに割り込もうとするはずです。
このとき、割り込みをかけるまでの時間がストップウォッチで計測されていたのでした。
果たしてどのような結果が得られたか?
粗暴条件の被験者さんは、割り込みをかけるまでの時間が最も短く、つぎが中性条件、一番遅くまで我慢して待っていたのが上品条件の被験者さんでした。
粗暴 < 中性 < 上品
ただし、被験者34名中、10分待っても割り込みをかけない人が21人もいたそうです。
でも、10分以内に割り込みをかけた人の割合は、粗暴条件が最も高かったということです。
割り込みを書ける行為は粗暴な行為、我慢してじっと待つのは上品な行為だ、と考えることができます。
つまり、
被験者さんたちは、言語課題のときに目にした単語が表していた、粗暴、または上品な特性に影響されて、実際にそのように振る舞ってしまったのだ、ということになります。
また、実験が終わってから被験者さんたちに、言語課題の内容が、自分の行動に影響を与えたと思うか、と尋ねたところ、
ハア?
という返事が返ってきたそうです。
例えば、言語課題の問題用紙の隅っこに、「あなたは粗暴に振る舞いたくなるぅ」みたいな呪文が書いてあったとしましょう(^^;
そのように「仕込み」がバレバレな場合、被験者さんたちの中には、
「ああ、そういう実験なのね。じゃ、そういうふうに振る舞ってあげましょうか」
と思う人(思ってくれる人)がいるかもしれません。
しかし、この実験の被験者さんたちの「ハァ?」な反応は、彼らが言語課題での「仕込み」に全く気づいていなかったことを示しています。
要するに、
この実験で示された現象は、無意識的に生じていたものだ、と解釈できます。
しかも、この現象が生じたのは、被験者さんからすると、実験その1とその2の合間なわけですから、自分が何か操作を受けているなんて、思いもしないわけです。
さて、
サブリミナル効果の場合、コーラやポップコーンの映像は、瞬間的に呈示されるだけですから、それを意識的に知覚することができません。
一方この実験では、被験者さんは言語課題の単語をはっきりと知覚しています。
普通に問題用紙に書いてあるわけですからね。
ですから、いわゆるサブリミナル効果とは違うわけですが、無意識のうちに行動が影響を受けてしまったという点では共通していますね。
むう。
ホントにこんな単純なことで行動が影響されるんだろうか?
こういう実験の被験者をやってみたいものです。
(続く)
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